予防医療のランダム・ウォーカー

内科専門医のblog 〜予防に勝る治療なし〜

3歳時のI.Qが低いと老化が早い?

先日ご紹介した【中年期の歩行速度が速い方が、老化は遅い】という内容に対する追加になります。

 

中年期の歩行速度と、脳の老化が関連していたということ。

 

また、

 

中年期(45歳時)の歩行距離が遅いと心肺機能、血圧、糖尿病の指標、歯の状況、顔の印象が全て老化が早いという内容でした。

 

歩行距離は脳の神経細胞の機能やネットワークそのものをある程度反映しているということなのでしょうか。

 

また、脳の神経細胞の機能自体が、心肺機能や血圧、糖尿病の状況、歯の状態、顔の印象まで関与しているというのは、

 

神経細胞の機能が優れている(神経伝達速度の速度が速い)

⇒歩行速度が速くなる

⇒基礎の運動能力が高い可能性

 

なので、基本的な運動機能が高くなれば、

 

⇒ 心肺機能が高くなる

⇒ 動脈硬化の改善(血圧の改善)

⇒ 運動能力の向上による肥満の改善やインスリン抵抗性の改善(糖尿病の改善)

⇒ インスリン抵抗性の改善・炎症の改善(歯周病の改善)

⇒ 活性酸素の低下(老化の改善)

 

そんな推論が成り立つような気がします。

 

 

また、この中年期の歩行速度に影響を与えている要素について次の検討がされています。

 

その要素とは、

 

1)3歳時のI.Q

2)3歳時の言語理解度

3)3歳時の欲求不満への耐性

4)3歳時の運動技能

5)3歳時の感情のコントロール能力

 

などから、45歳時の歩行速度が予測可能、と示されていました。

 

これらの5つの項目の成績が低かった人は、45歳時の歩行速度が遅かったと結論しています。

 

歩行速度が遅くなる現象は、既に幼児期から現れることが示された。若年の頃から、将来的に脳と身体の健康が維持できるかどうかを予測できる可能性がある。

 

以上のようにまとめられています。

 

神経機能については専門外なので詳細はわかりませんが、

 

要するに幼少期から脳の神経細胞の数か、もしくはネットワークの伝達性の良さ?のようなものが、中年期の歩行速度にも反映されていているということでしょうか。

 

遺伝的な要素が大きいようにも感じた結論でしたが、

 

45歳から歩行速度を上げる努力をすれば、何かが変わっていく可能性も十分あると信じたいですね。きっと正しいと思います。

運動習慣を継続するための時間の使い方

仕事柄、自分の同年代よりもやや高齢の方々に運動指導(運動処方)をさせていただくことが多いのですが、

 

ご高齢の方に比べ、仕事をしている割合が多い若い世代は一般的に自分の時間があまりありません。

 

話を伺っていると、ほとんどの人が時間がないといいます。

 

仕事に使われる時間、家族(子育て含む)に使う必要のある時間、移動時間、趣味の時間、睡眠時間などでしょうか。

 

これらに使用できる時間は誰でも一日24時間であることは決まっているので、

 

その配分は意識的に分けていかないと、行動は変えることができません。

 

 

仕事に使われる時間や家族との時間は自分の意思で変えられない場合が多いので、

あとは趣味の時間をどうするか、睡眠時間をどうするかになってきます。

 

睡眠時間を削るか、無駄な趣味の時間を削るかです。

 

自分の場合は、トレーニング効率を落とさないため、免疫力を落とさないためなどさまざまな医学的理由から、睡眠時間は可能な限り十分とるように努めています。

(時間が取れない場合もあるので、そうでない日は極力努力してとります)

 

ですので、睡眠時間を削る選択肢はありません。

 

多くの方にも睡眠時間を削ることはお勧めしたくありません。

 

 

そう考えると、あとは趣味の時間をどうコントロールするかです。

 

20代の頃はあまり感じないと思いますが、30代後半の頃から、人生は有限であるということを強く感じるようになりました。

 

一日中時間のある学生時代、どれほど無駄な時間を過ごしてきたのだろうと思うことはありますが、実はあれも今から考えれば必要な時間だったのだと思います。

(いま時間がないように感じるのは、あの頃の揺り戻しだと思っています)

 

趣味に使う時間についても、若い頃とはだいぶ違ってきました。

 

現在はほとんどの時間を、本を読んで知らない知識を貪欲に獲得することと運動に充てています。

 

 

運動習慣を継続するには、逆説的ですが、

 

あまりあたまで考えすぎないで、2~3種類の運動を毎日継続することだと思っています。

 

最初に何の運動を、どうやるかを考えることは重要です。

 

踵上げやハーフスクワットをまずおすすめしている理由は、下肢の筋力をつけることが、その後トレーニングを続ける際の基礎になるからです。

 

また、下肢の筋肉量は上半身の筋肉量よりも圧倒的に多いので、ウォーキングやぺダリングなどの有酸素運動の効率を上げられるという利点もあります。

 

しかし、このように最初に理論的にある程度考えたら、あとはあまり考えない。

 

純化して、ものを絞って、ひたすら繰り返す。

 

そして楽になってきたら、回数を増やす。

 

筋トレは週3回がよい、とかいろいろ理論はありますが、トップアスリートになる訳ではないので考えない。

 

自宅でやる自体重負荷トレーニングなんて、たいした負荷にはならないので、毎日やっても問題ありません。

 

レーニングを週3回(月・水・金)と決めたとしても、結構忘れてしまうものです。

 

間違いなくそのうち段々やらなくなりますから、もう毎日やると決めてしまった方がいいです。

 

やるまで寝ないと。

 

一日の時間のなかで、【緊急性はないが重要なこと】にどれだけ時間を割けるのかが人生にはとても重要なようです。

 

末梢動脈疾患はハイリスク

見逃されやすい病気として、末梢動脈疾患(PAD)について概説してみたいと思います。

PADは簡単に表現すると、脚の動脈が狭くなったり、つまったりしてしまう病気です。

症状は、下肢の冷感(足が冷たい)、しびれ、少し歩くと足が痛くなり休むと治る、です。

動脈硬化ベースなので、当然ご高齢の方に多くなりますので、脊柱管狭窄症という、腰の脊髄が圧迫される病気と似ており、気がつかれていないケースもあるかと思います。

PADの問題点は、歩く距離が制限されてしまうので、生活の質が低下することですが、それ以上に怖いのは重症化すると下肢の切断が必要になってしまうこと。

そして、PADでは心臓や脳の血管トラブルを合併するため、心筋梗塞後の方、脳卒中後の方よりも、心血管死亡率が高いことが示されています(REACH試験)。

最近ではさまざまなカテーテル治療ツールが開発され、血管形成術の成績は良好になりました。

カテーテル治療は短期的には症状を劇的に改善し、歩行可能な距離は長くなりますが、運動を併用しないと一年後にはカテーテル治療をしないで運動治療を続けた人と差がなくなることが示されています。

具体的な運動療法の内容は、基本有酸素運動ですが、ポイントは足に痛みが出るまで続けるという点です。

注意点は先程も書きましたが、PADの方は心臓、脳血管トラブルの合併症が多いので、その辺りもチェックしてからが良いということです。

内服薬は抗血小板薬が推奨されています。

歩いていて足が怠くなる、痛くなる、足が冷たいなどの症状があれば、検査は比較的簡便なので一度調べてみることをお勧めします。

高血圧の授業を終えて

本日、動脈硬化・高血圧という、学生の立場としては非常に興味を持ちにくい内容について、講義をしてきました。

 

自分が学生の頃は、がんに対する分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などといった治療法はなく、悪性腫瘍の領域はまだまだ先の見えない世界でした。

 

その点、脳梗塞心筋梗塞といった急性疾患については、カテーテル治療の成熟によって命を救われる方が増加し、しかもやっていることが単純でわかりやすいこともあり、授業にも興味を持って参加していたような気がします。

 

その頃から脳梗塞心筋梗塞の原因は高血圧だったり、コレステロール異常による動脈硬化が原因だとは教わっていましたが、高血圧や動脈硬化には全く興味を持てませんでした。

 

(高血圧は内容的に地味だったのと、本質の理解ができていないかった学生の頃の自分の実力不足があったんだと思っています)

 

 

かくして、現在の進路に進んでしまった訳ですが、

 

あたりまえのことになりますが、

 

カテーテル治療をいくら頑張っても急性心筋梗塞を発症してしまう患者さんが減る訳ではありません。

 

カテーテル治療は表現が悪いのですが、もぐら叩きと一緒です。

 

発症したら治療する。それだけです。そして、何度も書いてきたように、心筋梗塞で壊死した心臓の筋肉は、カテーテルで治療しても元には戻りません。

 

本当にカテーテル治療をずっとやっていていいのだろうか、と思うことが最近特に増えました。

 

もちろん、カテーテル治療には、自分自身の放射線被曝の問題も出てきます。

 

 

同じような立場で、カテーテル治療を頑張っておられる先生方はすごいと思っていますが、

 

今後は、発症をさせないような仕組みづくりがしたいと最近本気で思います。

 

 

そんなことを考えながら、授業スライドにその思いを込めつつ、学生には全く興味のないであろう授業をしてきました。

 

学生の頃の自分とはだいぶ価値観が変わったものだなあ、と。

 

心筋梗塞後も、脚の動脈が狭くなる末梢動脈疾患も、結局、運動療法が重要という結論なのです。

 

進路を決める際にそこまで思いが至らなかったのは、ひとえに学生の頃の勉強不足だなと思いました。

 

優秀な同期は最初から心臓病には運動療法だ、と言っていましたから、彼には今になって改めて脱帽です。

中年期の歩行速度が老化予測の指標となる可能性

【中年期の歩行速度が老化予測の指標となる】という内容です。

 

興味深い研究結果でしたので、ご紹介します。

 

結論から書いてしまいますが、

 

歩行速度が遅い人は、歩行速度が速い人に比べて老化が加速しているという結果です。

 

45歳時の歩行速度を測定、また同時に脳のMRIを撮像した結果、

 

歩行速度が速い人に比べて、遅い人では脳の容積が有意に減少していました。

 

また、

 

大脳皮質厚の減少

大脳皮質表面積の減少

大脳白質の高信号域の増加

 

といった、脳の老化を示唆する所見が認められました。

 

 

この研究がユニークだと感じたのはここからです。

 

19項目(血圧、心肺機能、歯の状態など)の経年変化を評価したところ、

 

歩行速度が遅い人では老化が加速しているという結果となり、

 

さらに、

 

顔年齢も評価しており、歩行速度が遅い人では顔写真が老けて見えたと結論づけられていました。

 

顔写真の部分は多少主観的な要素が入っている可能性がありますが、

 

それでも参加数が904名となっており、nは少ない訳ではありませんので、興味深い結果です。

 

この内容を知った上で自分の身の回りのひとの歩く速さを見てみると、世の中が少し変わって見えるかもしれません。

 

少なくとも自分は、外来などでたくさんの方にお会いする機会が多いので、興味深いです。

自宅筋トレにデッドリフトの要素をどのように導入するか

筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)では、

 

ベンチプレス、デッドリフト、スクワットという三種類の筋力トレーニングが三大トレーニングとされています。

 

私の筋力トレーニング、有酸素運動はあくまで心臓病に対するリハビリテーションの知識・経験から派生してきたものです。

 

そのため、

 

基本的には自宅でできる範囲で、自体重トレーニングを患者さんにもお願いしていますし、自分自身もメニューを更新しながら継続しています。

 

 

心臓リハビリテーションの現場では、

 

ふくらはぎは第二の心臓というように、下肢の筋力が増加することによって、心臓に下肢から戻る静脈血の戻りがスムーズになるという目的から、

 

また、転倒防止の観点から簡便に継続できるという視点から、スクワットの要素が重視されている傾向にあります。

 

両サイドに椅子を置いて行えば、転倒のリスクも減りますので、これはこれで理にかなっているのですが、

 

運動自体が単調になるのと、使用できる筋肉に限りが出てしまいますので、

なんとか他の要素も患者さんに提供したいとずっと考えつつ、ここまで来てしまいました。

 

今回、三大トレーニングのうちの、デッドリフトの要素を自体重トレーニングで導入できないかを考えてみました。

 

デッドリフトとは、足元の重りを両手で把持し、背中の筋力だけで上へ上げる運動です。

 

これを自宅で、しかも心臓病の方の目線でどう取り入れたらよいのかを考えました。

 

一番安全なのは、コピー用紙のようなA4サイズの用紙の束(もしくはあつい本など)を床に置き、それを両手で持って腰の力だけで持ち上げる方法が、一番危ない負荷がかからないかと思います。

 

コピー用紙の枚数によって負荷を変えられるので、その量は人それぞれですが、それでも30回も繰り返せば、それなりの負荷になりそうです。

 

前屈に制限がある場合などは、目の前に椅子を置いて、その上にコピー用紙の束を置いて行うのも一法です。

 

 

正確には自体重筋トレ、ではありませんが、

一応ここでは自宅で患者さんが簡便にできる、しかも安全に、というのが目的で書かせてもらいました。

 

他の方法もいろいろあるのですが、実際にやってみて転倒のリスク等を考慮すると、この方法が良さそうです。

 

自分でしばらく継続して、良さを確認できた段階で外来でリリースする予定です。

 

 

糖尿病と歯周病の密接な関係性

歯科というものは奥が深いもので、知らないことがたくさんあります。

 

心臓の手術前に、主に手術後の心臓内部の感染予防のため、歯科でう歯(むし歯)のチェックをしていただいたり、または、入院中の場合は、歯科医の先生に病棟に出張していただいたりしたことは今までにもありました。

 

最近の知見では、歯周病治療が糖尿病の治療になるという話題です。

 

機序としては、歯周病による口腔内の炎症が、インスリンという血糖を下げるホルモンの効果を弱めて、糖尿病のコントロールを悪化させるようです。

 

歯周病の治療を行っただけで、糖尿病のコントロールの指標のひとつとして使用されているHbA1cが改善したという報告があり、

 

今回改訂された糖尿病診療ガイドラインにも取り上げられました。

 

簡単にまとめると、

 

歯周病は、疫学的に糖尿病悪化に関連しており、歯周病の重症度が高いほど糖尿病のコントロールが不良になる。

 

糖尿病(1型糖尿病除く)では、歯周病治療によって血糖が改善する可能性がある。

 

 

以上のことから、

 

糖尿病の治療を受けている方全てではないにしても、

多くの方々が、歯周病を治療しさえすれば糖尿病ではなくなる可能性がある

 

ということでもあるように思えます。

 

歯周病を治療して、今までの食事療法と運動療法を続けたら、糖尿病を脱した、なんてことが起こる可能性があるということです。

 

振り返ってみれば、歯周病治療をされた方の中にそういった経験があったようにも思えます。

 

糖尿病のリスクから解放されるということは、かなりの病気から解放されるのと同義です。

 

早速明日からの診療に活かそうと思います。

 

 

※追記します

コメントをいただきありがとうございます。

少し難解な内容になると考え省略しましたが、歯周病による炎症によってインスリンの効きが悪くなる(インスリン抵抗性)が糖尿病増悪の機序と言われています。

補足していただき、ありがとうございます。