予防医療のランダム・ウォーカー

内科専門医のblog 〜予防に勝る治療なし〜

腎臓病の血圧はどうするか

先に結論を書いてしまいます。

 

慢性腎臓病の血圧コントロール

  蛋白尿がある場合:130 / 80 未満に下げる

  蛋白尿がない場合:140 / 90 未満に下げる

 

軽度の腎機能低下、蛋白尿(アルブミン尿)があると、脳卒中心筋梗塞を高い確率で発症することが明らかとなり、これに早期に対処する目的で慢性腎臓病という概念が生まれました。

 

慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease, CKD)は採血から推定される現在の腎臓の機能と尿蛋白でその重症度が分類されます。

 

高血圧はこの慢性腎臓病の原因となるため、すべての高血圧の人は検尿と採血による腎臓の機能をみなければならないと記載されています。

 

CKDが判明したら、生活習慣の改善(塩分制限、体重を適正にする、禁煙など)を行うと同時に、血圧が上記した目標値以上であればただちに、降圧療法を開始することになっています。

 

慢性腎臓病にはかなりの確率で睡眠時無呼吸症候群が合併するようです。これは知りませんでした。

 

今後注意深くみていく必要があるポイントですね。

 

 

 

(補足と振り返り)

CKDに合併した高血圧の治療についてですが、

 CKDで蛋白尿がある場合:ACE阻害薬、ARBという薬剤がfirst choice

 CKDで尿蛋白がない場合:ACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬、利尿薬のうちどれか

以上のようになっています。

 

不思議なのは、CKDが多少でもあると、ACE阻害薬、ARBは使用してはいけない!と誤認している先生が結構な人数いらっしゃるということです。

 

もちろん使用に際して、腎機能の悪化には注意はしなければなりませんけどね。

 

世の中いろいろな勘違いがあるものです。

(こういった場合、説明しても相手がそもそもの知識がないことが多いので、時間の無駄になりますから気をつけましょう)

日常診療には矛盾が多い(理不尽さも)

先日も午前中だけで、高血圧で未治療の方が10名ほど来院されました。

 

高血圧のガイドラインについて詳しくご説明すると、治療を積極的にやっていきたいというかたが多いです。

(高血圧では死亡率が上がるのですから、あたりまえですかね)

しかし、丁寧に説明する時間をとればとるほど、他の方の待ち時間は増えます。

 

自分自身はなるべく待たず、自分の診察時はたくさん話をしたい、聞きたい。というのが理想だと思いますが、なかなか物理的に難しいことが多いです。

 

今回、検査の結果説明だけを聞きにきたのにこんなに待たせるんじゃない、と怒って帰って行かれたかたもいらっしゃいましたが、そういう方は、受診日も主治医も決まっていなくて、予約もなく、毎回ご自分が来れる日に来ている方でした。

 

こちらとしても、早く外来が終わった方が昼休みがとれるようになるので助かるのですが、どうしても丁寧にしっかりやっていくと、そうもいかないのです。

 

詳しい話が聞きたい、しっかりとした治療がいい、と思っていらっしゃる定期受診の方々は、予約をしていても状況によっては1時間以上お待たせすることもあります。

(予約外の急患対応がある限り、そうなってしまいます。予想できませんので。)

 

しかし、ご予約でいらっしゃっている方々は、本当に嫌な顔一つせず(本当はお待ちにはなりたくはないのでしょうけど)、こちらをねぎらうほどの精神的な余裕をもってらっしゃる方も多く、心の広さに毎回救われています。

 

こちらも人間ですから、そういう方たちにはもっと時間をとって、満足感が高い対応がしたいと思いますよね。

 

待てない方は、まずしっかり主治医の先生を決めて予約して来ていただくか、説明が短く(ほとんどなく)、回転の速いクリニックを探して行っていただくしかないのかなと今回思いました。

 

あと、毎回受診する医師が違ってしまうと、少なくとも必要十分な説明は受けることは難しいと認識して病院に通院してください。

 

(これはクリニックのフリーアクセスは損だと思うという内容で以前書きました。前回担当した医師がまずどう説明したのか詳細までわかりませんから、現状を説明するのみで、いままでのこと、これからのことの説明は難しいと思います)

 

回転の早いクリニックの場合、病状の説明はお聞きになれないとは思いますが、治療方針がほとんど変わらないのなら、それが良い人もいらっしゃるでしょう。

 

 

しかし、世の中は広くて、ここまで高血圧の方がいらっしゃるのかと、本当に毎回毎回、ただただ驚きます。

 

しかも140 / 90周辺の血圧ではありません。200 / 110とか、180 / 100、170 / 90 といった数値です。

 

今回の診療を振り返ると、高血圧や循環器の慢性疾患専門に特化させた外来・クリニックにして、予約制にした方が、自分と患者さんにとって、お互いのためになるのかなと感じた一日でした。診察前にblogを読んできてください、というのもありかもですね。

脳卒中・心臓病の血圧コントロール

高血圧の定義をおさらいをします。

 

血圧:140 / 90 以上 ⇒ 高血圧

血圧:130~139 / 85~89 ⇒ 高値血圧

血圧:120~129 / 80~84  ⇒ 正常高値血圧

血圧:119 / 79 以下 ⇒ 正常血圧

 

でした。

 

予防の観点からは

 

血圧が140 / 90 以上で脳卒中心筋梗塞などの心臓疾患での【死亡率】が上昇

血圧が120 / 80 以上で脳卒中心筋梗塞などの心臓疾患の【発症率】が上昇

 

以上のようにガイドラインには記載されています。

 

ですから、120 / 80 以上になった段階で、いろいろと注意をしなければならないというお話もさせていただきました。

 

今回は、既に脳卒中心筋梗塞、腎臓病などになって内服薬での治療を継続している方が、慢性期(一般的に退院後になります)どこまで血圧を下げればよいのか、というのがテーマになります。

 

ご家族や周りにこれからまとめていく御病気の方がもしいらっしゃいましたら、是非教えてあげてください。

 

a)脳梗塞後:130/80未満まで下げる

(ただし、頸動脈の高度な狭窄や、脳の主幹動脈閉塞では下げすぎに注意し、140/90未満とすることを推奨)

 

※注意:脳梗塞発症直後(急性期)は当てはまりません

 

b)脳出血後:130/80未満まで下げる

(降圧治療による脳出血の再発は50%低下する)

 

c)くも膜下出血:明らかな科学的根拠が現状ないため、脳出血後と同じ基準となった。

 

d)狭心症心筋梗塞治療後:130/80未満まで下げる

(特に収縮期血圧130以下への降圧は、心不全脳卒中発症を低下させる)

 

e)心不全発症後:病態により値が違うので、主治医に相談しましょう

(高血圧は心不全の原因として最も頻度が高い。高血圧は心不全初期段階と言い換えても過言ではない)

 

f)心房細動発症後:収縮期血圧を130未満に下げる

(心房細動における脳卒中、死亡のリスクは血圧依存性に増加する。また、抗凝固療法による出血などの合併症予防のためにも、血圧は厳しく管理すべき)

 

g)大動脈解離後:慢性期には収縮期血圧130未満に下げる

(急性期、つまり入院中は収縮期血圧を110~120といわれることが多い)

 

h)動脈瘤収縮期血圧を105~120

(破裂すると致死的。現状では明確なエビデンスなし。しかし、収縮期血圧を105~120にコントロールすることが重要とされている。禁煙が重要)

 

長くなってきましたので、他の疾患につきましては、別の機会にご紹介します。

 

是非参考にして、主治医の先生にいろいろ聞いてみてください。

 

今回は再発防止の観点を中心に、脳卒中と心臓病に一度かかってしまった人のための血圧管理の重要性をまとめました。脳卒中心筋梗塞を減らす輪が小さくても、少しずつでも、広がればと考えています。

日本の高血圧は4300万人

前回は高血圧の定義をまとめました。

 

今回は日本の現状をみてみたいと思います。

 

まず、40歳から74歳では、男性の60パーセント、女性の41パーセントが高血圧の基準を満たすようです。

 

これはかなりの数になりますよね。

 

さらに75歳を超えると、男女ともに70パーセントを超えてきます。

 

若い頃は低かったのに!という方がたくさんいらっしゃいますよね。

 

女性の場合は閉経後のエストロゲンプロゲステロンの作用変化が関与していると言われています。

 

 

高血圧は4300万人で、そのうち自分が高血圧だということを知らない方が1400万人という統計が出ています。

 

ただこれは、いくつからが高血圧なのか知らないから、ということもあるでしょう。

 

医師でも全員が血圧の基準値を把握してる訳じゃないですから、医療関係者ではない方々ではあたりまえです。ですから、何度も何度もまた書きたいと思います。

(自分も正常高値血圧、高値血圧の意味を少し勘違いしてました)

 

高血圧は地味ですが、減塩が確実な改善方法です。

ただ、1日6グラム未満と言われても、なかなか実感がわかないですよね。

 

最近の日本の調査では、約10グラムを1日に摂取している人が多いそうです。また、加工食品等に塩分の表示が義務付けになるようなので、少しはやりやすくなるそうです。

(いままでは塩分表示ではなく、ナトリウム表示だったため、いまいちピンとこない感じだったようです)

 

塩分は、外食したら一回で厳しくなりそうな気もします。

 

血圧も、糖尿病も、コレステロールも、結局は食事が強く関係しているんだなと再認識することになりました。

 

ということは、これらが進行して起こる脳卒中心筋梗塞の多くも食事が関係してるのは間違いないでしょう。

 

これはまさに医食同源ということですが、おいしいもの食べたいのは当たり前ですから、食べてもいいと思います。

 

だから、食べてもそれをうまく使えるからだ作りが大事ですね。

 

有酸素運動(+筋トレ)です。

(筋トレ、レジスタンストレーニングには科学的根拠はありませんが、有酸素と組み合わせると高い効果が得られると思います。特に下半身の筋トレです)

 

結局そこにいきつきますかね。

 

あとは、内服薬をうまく利用することです。

 

日本人の寿命がここまで長くなったのは、薬物治療の力が一番大きいと個人的には思います。あとは、これからは単に寿命だけではなく、元気で活動ができる健康寿命を伸ばすことです。

 

健康寿命はこれからのkey wordですね。

高血圧の数値基準をはっきりさせます

高血圧診療ガイドラインが改訂され、今回高血圧診療ガイドライン2019として発刊されました。

 

前回は2014年でしたので、5年ぶりの改訂になります。

 

高血圧などの授業をさせていただいている手前、前回のガイドライン2014はあたまに入っているつもりでしたが、新たな知見もあり、今回改めて改訂されたガイドライン2019を熟読し、みなさんに有益な情報があれば、ご紹介していこうと思います。

 

高血圧はそれじたいで症状がないのが一番の問題点ですね。

 

まず、一番の関心事である血圧の数値について、です。

 

【高血圧は収縮期血圧 / 拡張期血圧が、140 / 90 以上のすべてのもの】です。

 

例えば、【150 / 70】 は収縮期(俗にいう上の血圧)が140を超えているので高血圧です。また、これは結構勘違いをされているかたも多いと思いますが、【130 / 90】も高血圧です。拡張期血圧(下の血圧)が90を超えてしまっているからです。 

(高血圧であるものを選べ、という形で過去に国家試験にも出題されています)

 

なぜ、140 / 90 以上を高血圧と定義しているのかですが、日本で今までに調査が行われた複数の結果から、140 / 90 以上の血圧の人とそうでない人を時間をかけて追った結果、140 / 90 以上のグループでは脳卒中、心臓病での死亡率が明らかに高かったためです。

 

一方、海外では130 / 80 以上を高血圧と定義しています。これは海外で行われた調査ではこの数値以上で脳心血管病のリスクが高かったということです。

 

しかし、話はこれで終わりません。

 

120 / 80 未満と比べると、120~129 / 80~84、130~139 / 85~89の順に、脳心血管病の発症率が高いことが海外の調査のみならず、日本の調査でもわかってきました。

 

そのため、120 / 80 以上の血圧も正常とは言えないということになり、それぞれを分類しています。

 

まとめると、

 

血圧:140 / 90 以上 ⇒ 高血圧

血圧:130~139 / 85~89 ⇒ 高値血圧

血圧:120~129 / 80~84  ⇒ 正常高値血圧

血圧:119 / 79 以下 ⇒ 正常血圧

 

となります。

(正常高値血圧という表現もやや苦しい表現だなと思いました)

 

要は、120 / 80 以上は上がれば上がるほど、脳心血管系の病気のリスクが高くなるということです。

 

この結果をみて、少なくとも自分自身の血圧は119 / 79 以下にしないと、と思いました。

 

もちろん年齢や合併症の有無で数値は変わりますが、多くの方が当てはまる条件の記載を今回行いました。

(複雑になって大事なポイントがわからなくなってしまうので、今回は記載しません)

 

次回以降で、またそのあたりの詳細をお伝えできればと思います。

 

(※血圧の単位:mmHgの記載は今回していません。より見やすくするためです)

 

透析治療に腹膜透析という選択肢

腎臓専門医ではない内科医にとって、腹膜透析は馴染みがなく、過去のものという認識を持っていましたが、専門家の意見を聞いて考え方が変わったという話です。

 

おそらく一般的にイメージされる透析は、腎臓の病気で腎臓の機能が低下し、からだのなかの老廃物や余分な水分をからだの外に捨てることができなくなった段階で行うもので、週3回透析クリニックに通院し、血管に管を入れて、血液を機械でろ過してからだに戻すというものです。

 

透析の原因になる病気は、糖尿病による腎不全(糖尿病性腎症といいます)が一番多く、次に多いのが腎炎という腎臓の病気です。

 

透析には上記しました血液をろ過する血液透析の他に、腹膜透析といって、おなかの中の腹腔という空間に液体を入れて、その液体の中にからだの中の老廃物を吸収させて、からだの外に出すものがあります。

 

現在日本では透析といったら、97%が前者の血液透析で、腹膜透析は3%にすぎません。

 

腹膜透析は、まず週3回透析をしにクリニックで4時間拘束されることがありません。自宅で、自分もしくは家族の介助で行うことが可能です。

 

これは、自分の時間をある程度有意義に過ごすという意味では、血液透析では不可能な腹膜透析のメリットです。

 

とはいえ、腹膜透析も行える年数はだいたい7年前後とされています。

 

しかし、慢性腎臓病が徐々に進行し、いよいよ腎臓の機能がだめになってきた段階で、いきなり血液透析に切り替えるよりも、腎臓の機能が多少悪くなって、尿量が低下してきた段階で腹膜透析を開始すると、血液透析になるまでの時間を伸ばすことも十分可能とのことです。

 

腹膜透析も感染などのリスクはありますが、それは血管に週3回管を入れて透析を行う血液透析も同様です。

 

腹膜透析は在宅でできるので、今後クリニックに週3回も通院できない方にとって、良い方法になる可能性があります。

 

非常に勉強になりました。

 

ただ、まずは透析にならないようにしなければなりません。それこそ予防医療です。

 

繰り返しになりますが、透析となる原因の第一位は糖尿病です。また、高血圧も原因になり得ますし、糖尿病では血圧管理が非常に大切です。

 

健康診断で糖尿病が疑われたら、疑いの段階ですぐ治療です。

 

運動療法、食事療法がまず大事です。

 

もし、運動と食事で手に負えないレベルでも、内服薬も非常に進歩してきています。気がついたら透析レベルになっていました、というのでは、何のために健康診断を受けているのかわかりません。

 

糖尿病はかならず糖尿病専門医か、内科の専門医のクリニックに通院してください。

 

薬物療法がこの数年でかなり変化しており、内科医でさえもついていくのに必死です。

 

糖尿病の方に関わらずですが、自分が何科の先生のクリニックに通院していて、何を飲んでいるのか、どんな運動指導や食事指導をされているのかは把握しておきましょう。

 

職業運転手の方には睡眠時の無呼吸検査を

長距離バスの運転士(職業運転士)の方々には、睡眠時無呼吸症候群の検査の義務付けはされたのでしょうか。

 

長距離バスだけではなく、タクシーの運転手のみなさんもですし、航空機のパイロットや、もしかしたら医療従事者も、検査の義務づけが必要になるかもしれません。

 

もっと拡大解釈すると、自動車の運転免許更新時には、ある年齢以上で義務づけした方が社会的にはいいんでしょうね。

 

睡眠時無呼吸症候群とは、かんたんにご説明すると(以前にも少し書きました)、夜間寝ている間に呼吸が停止してしまうため、熟眠感が得られず昼間に強い眠気を感じて寝てしまう病気です。

 

家族からいびきや、寝ている間に呼吸が止まっていることを指摘されるのが来院のきっかけになることが多いと思います。

 

睡眠時無呼吸症候群は日本人の100人に1人と言われていますが、現在適切な治療を受けている方はそのうちのごく一部です。 数字にすると、日本には約200万人の睡眠時無呼吸症候群の方がいると推定されていて(これもまだ一部かもしれません)、治療を受けているのが40万人にいかないくらいです。

 

治療までなかなか進まないのは、本人が寝ている間のことで気がつかないことから、クリニックを受診するところまでまず到達しないことが考えられます。

 

この睡眠時無呼吸症候群ですが、昼間の眠気が症状の中核をなします。

 

寝ている間に口と鼻を一定時間塞がれるのと一緒なので、からだの中はかなりの低酸素状態になります。

 

ある程度以上の未治療で放置すると、生存率が下がるものの、適切な治療によって改善は十分可能なようです。

 

睡眠時無呼吸症候群の合併症もたくさんありますが、また、ご紹介しようと思います。ひとつには前回ご紹介した心房細動もあります。

 

少なくとも多くの人の命に関わる仕事につく人には、検査受けましょう。

 

と言ってもなかなか難しいので、もし、徹底するなら検査の義務化が必要でしょう。それで大事故が防げるのであれば。

 

問題は費用負担でしょうか。