手術前の説明をほとんどの人が理解していない、という話です。
【心臓手術前に受けた説明を、大半の患者さんは理解していない】という内容の論文がありました。
心臓カテーテル治療を受けた326名の患者さんに対する調査結果です。
326名の内訳は緊急治療が159名、待機的治療が167名です。
まずこの内訳をみると、急性心筋梗塞で本当に心臓カテーテル治療が必要だったのは、約半数ということがわかります。
(急性心筋梗塞には心臓カテーテル治療は必要、安定型狭心症には不要です)
待機的に治療ができた、という167名は安定型の狭心症ということです。
(厳密には不安定狭心症をいくらか含んでいる可能性はありますが、少数です)
これらの患者さんに対して術前に行った手術の説明が、あとから確認したところ、
患者さんの40%以上が内容を理解していなかったという結果です。
さらに、60%の人が心臓カテーテル治療で病気が治ると誤認していました。
また、待機的に心臓カテーテル治療を行った95%もの患者さんが、「今後の心筋梗塞のリスクが下がる」、91%が「寿命が延びる」と認識していたというのです。
カテーテル治療にはそのような効果はありません。
今回の結果は、要するに治療の内容に関しても、その時の病態についても、ほとんどの人がわかっていなかったということになります。
緊急で治療を受けた159名は、一分一秒を争う中で説明を受けていますから(そうでないと急性心筋梗塞はどんどん死亡率が上昇します)、説明を十分に理解していなかったというのは、ある意味仕方ないことかもしれません。
ただ、問題なのは、治療まで十分時間のあった待機的治療を受けた167名が、このように病気を誤解しているということです。
おそらくどの循環器医も、
カテーテル治療が成功すればもうこの病気にはなりませんとか、寿命が延びますよ、病気自体が治りますよ、とは言っていないはずなのですが、
十分な説明がないまま、治療後のきれいになった血管をこのように見せられると、
「ああ、もう良くなった」
「今までの積み重なった病気のリスクはこれでゼロになった」
「これでもう心臓は問題ない」
と思ってしまうのは、ある意味で当たり前かと思います。
実際、治療後にそんなことをおっしゃる方も少なくありません。
ここで本当は、
こういった病気は全身の動脈硬化が原因なので、
今回はその一部を治療しただけで、ほかの部分からまた狭心症や心筋梗塞を発症する可能性は高いのです、と説明し、しっかり理解していただかなければならないのですが、
なかなかご理解をいただけないことも多いのが現実です。
逆に、
こういった説明を理解していただける方は、間違いなく週3回の運動治療(運動療法)に参加してくれます。
結局、個人個人の性格とか、理解度の問題で、その後の人生は大きく変わってしまうのが現実ですが、十分に説明しない医療サイドの責任もあると思います。