人生100年時代になりそうです。
前回までは、国が法制化した【脳卒中・循環器病克服対策】についてご紹介しました。
この法制化の目的としては、
a) 脳卒中・心臓病の発症には予防が可能な要素が多くあるが、それを国民全体に周知できていない。脳卒中・心臓病の発症予防と、発症後の血圧管理、内服管理、リハビリテーションを徹底することで、健康寿命と平均寿命の差を今後着実に埋めていくこと。
b) がんに比べて予防が確立しつつある脳卒中・心臓病に対する予防を徹底させることで、膨大な医療費を削減できること。
c) 若い世代、労働世代を極力長い期間、元気にいさせて、社会インフラを支える担い手を減らさないこと。
この3つが考えられると思います。
では具体的にどうすれば良いのでしょうか。
その話に移る前に、脳卒中や心筋梗塞になるとどうなるの?というご質問がありましたので、なぜ対策をしなければいけないのかを簡単にご説明します。
脳卒中は、基本的に脳のなかの血管のトラブルで発症します。
脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などに分かれており、それぞれに症状もさまざまですが、脳の大きい範囲にダメージが出ると、半身麻痺、意識障害(意思疎通不可能)な状態になる場合があります。
軽くても、上半身が上手く動かせない、うまく話ができない、口から水がこぼれる、右手の痺れなどがずっと残るため、もとに完全には戻りません。
認知症にもなります。
治療も日々進歩しているとはいえ、現状では障害が残りながらも社会復帰できるケースもあれば、命を落とす場合も多いでしょう。
次に、心筋梗塞は何が困るのかですが、
心臓へ血液を届けている血管が突然つまってしまうため、心臓の筋肉が壊死して腐ってしまいます。
カテーテル治療などで救命率は改善し、つまった血管は元通りに戻るようになりましたが、ダメージを受けた心臓の筋肉は腐ったままになりますから、心臓の機能は発症前より原則低下します。
(ここは皆さんが誤解しているポイントです。血管がきれいになった画像を見せられれば、腐った心臓の筋肉までもとに戻ったんだと誤解する方がたくさんいらっしゃいますが、それは間違いです)
心臓の機能が低下すると、発症前よりも重労働などがしにくいからだになります。
重症度によっては、入退院を短期間で繰り返すようになったり、もちろん心筋梗塞で亡くなってしまうかたも未だにたくさんいらっしゃいます。
突然死の大きな原因のひとつです。
(最近、運動会中に倒れた父兄のニュースがありましたが、心筋梗塞でした)
では、脳卒中・循環器病克服計画を踏まえながら、どうしていけばよいのか、今できることは何か、アウトラインを簡単にまとめてみます。
1、高血圧は必ず正す
特に30歳から64歳までは、血圧が高ければ高いほど、脳卒中・心筋梗塞発症のリスクが高いことがはっきりしています。
高血圧の基準は140 / 90 以上ですが、120 / 80 未満では心疾患での死亡するリスクに加え、発症するリスクすら減少させられることが科学的に証明されています。
若い年代では特に、120 / 80 未満(119 / 79以下)にすること。
2、コレステロール異常(脂質異常症)もしっかり管理する(もしかしたら一番重要)
(LDLコレステロールは120以上で高値と判断されている)
HDLコレステロールが低いと心筋梗塞の発症や死亡のリスクが上昇。
コレステロール異常を指摘されたら、自分で【これりすくん】でリスクを計算してみましょう。直近10年間の自分の心筋梗塞発症リスクと、LDL、HDL、中性脂肪などをどれくらいの値にすべきかを出してくれますので、とても参考になると思います。
最近の知見では、LDLコレステロールは低ければ低いほど、脳梗塞・心筋梗塞の発症リスクを低下させられるということです。
※冠動脈疾患発症予測ツール【これりすくん】
http://www.j-athero.org/general/ge_app/general2/index.html
ただ、これりすくんを使用して低リスクと判定されたとしても尚、LDLコレステロールに関しては自分は下げるべきだと考えています(ここは個人的な見解です)。
3、糖尿病があると心筋梗塞での死亡リスクが高くなる
糖尿病は初期の段階で、運動療法とカロリー制限で叩くこと。
また、肥満は糖尿病の前段階であるという自覚の有無が、明暗を分けると思います。
それ以外にも糖尿病は失明の原因になったり、透析の原因になったりすることも忘れてはいけません。まさにサイレントキラーです。
運動療法につきましては、以前記載しましたので、宜しければ是非ご覧ください。
参考までに、糖尿病の合併症を以下に挙げてみます。恐ろしいです。
糖尿病網膜症(眼の出血、失明の原因)、糖尿病性腎症(腎臓の機能低下、透析の原因)神経障害(しびれの原因)、高血圧、心筋梗塞、脳梗塞、末梢動脈の閉塞、白内障、緑内障、骨粗鬆症、うつ病、すい臓がん、肝臓がん、大腸がん、足の感染、壊疽(下肢切断)
4、肥満の改善(標準体重の維持)
適正体重を維持することは重要です。
(標準体重kg)= 身長(m)× 身長(m)× 22
この式で計算しますが、適正な体重が概ねこれくらいという値を以下に示します。
身長150センチなら体重50キロ
身長155センチなら体重53キロ
身長160センチなら体重56キロ
身長165センチなら体重60キロ
身長170センチなら体重64キロ
身長175センチなら体重67キロ
肥満はそれだけで、リスクです。
5、心房細動(不整脈)を見逃さないこと
このブログでも何度か紹介していますが、心房細動は脳梗塞のハイリスク疾患です。
心房細動が厄介なのは、健康診断で見つけることがかなり難しいということです。
健康診断の心電図で問題ありませんよ、と言われて安心ができない病気です。
なぜなら、心房細動は出ては消え、消えては出てくる病気だからです。
知らないうちに脳梗塞を起こして消えていきます。
健康診断の時にたまたま心電図で見つかれば、かなり幸運です。
比較的若い年齢で脳梗塞を起こしている方は、おそらくこれが原因であることが多いと思います。
そして、だれでも知っている著名人が何人も、心房細動で脳梗塞になったり心不全になったりしていますよね。
心房細動の発見に革命が起こるとすれば、Apple Watchの心電図機能です。
これが全ての人が使えるようになれば、ものすごい数の心房細動が発見されるでしょう。
(その時に対応できる医療体制がないことが、今の問題点です)
これらには全て科学的な根拠があります。
いままでの先人のさまざまなデータをもとに統計解析をし尽して、割り出された答えであり、現実ですので、是非参考にしてみてください。
見た目の本当の美しさや若さは、実は血管の若さ、臓器や筋肉の若さに比例していると思います。
本物のアンチエイジングは、こういった地味だけれど重要なところにあります。
今の日本では、見た目の美しさ、若さを表面だけ取り繕ってなんとかしようという発想が大半ですが、いずれはこういった細かな内科的メンテナンスが、見た目の美しさや若さにつながっていた、ということがはっきりしてくると思います。
年齢より若く見えるとか、年齢より老けて見えるといったことは、遺伝的な要素もあるとは思いますが、糖尿病の有無、高血圧があるかないか、コレステロールはどうか、肥満はないか、といったところが実は大きく関与しているのではないかと思っています。