予防医療のランダム・ウォーカー

内科専門医のblog 〜予防に勝る治療なし〜

【うつ病】について学び直す

精神疾患は多岐に渡りますが、統合失調症うつ病、不安症、不眠症強迫症など症状からある程度分類されています。

 

内科の病気はある程度理論が確立した分野であるため、知識を持つのは比較的容易ですが、精神疾患はその点非常に捉えどころが難しいと感じてしまいます。

 

うつ病は、気分・感情の障害で、気分が落ち込む、悲観的気分になる、気力低下、疲れやすい、などの変化を伴って、社会生活に支障をきたした状態です。

 

睡眠障害、思考力低下、死にたい気持ちになる、などの症状も出ます。

 

うつ病の典型例は、こんなかんじになります。

40歳、会社員。職場の異動に伴い管理職となった。

ほかの部署と売上を競うような立場になり、多忙かつ不眠傾向となった。

徐々に食欲も低下し、絶望的な考えが浮かぶようになり、趣味の時間もたのしく感じられないようになった。

 

うつ病に対する治療薬は、脳内のセロトニンノルアドレナリンドパミンといった物質が分解されるのを 防ぐことで、セロトニンノルアドレナリンドパミンの濃度をあげることにより、効果を発揮するとされています。

 

有名なパキシルという薬(一般名パロキセチン)は、脳内のセロトニンを増加させることによって、抗うつ効果をあらわします。

 

ところで、うつ病の初期の段階で出てくる症状とは、気分の落ち込みではなく、睡眠障害と言われています。

 

まずはじめに、眠れない、または、眠りすぎてしまう睡眠過多になります。

 

睡眠障害が出た時点で、もしかしたら誰もがうつ病の前状態になっている可能性があるということになります。

 

また、脳内のセロトニンノルアドレナリンドパミンを増やせば単純にうつ病が良くなるわけではなく、これかの物質が互いに相互作用を起こしているのではないかと言われています。

 

そして、これらの脳内のさまざまな物質を増加させることができるのは、抗うつ薬だけではなく、実は運動にも同様の効果があることが示されているのです。

 

以前、精神疾患には睡眠が必要であるという精神科専門医の先生の意見をご紹介した際に、睡眠には適度な身体疲労が大切で、身体疲労を得るには運動習慣が必要だと説明しました。

 

運動習慣→身体疲労→適切な睡眠→精神疾患の予防・改善

 

という仮説を立てましたが、 運動習慣そのものが、単独で脳内のセロトニンノルアドレナリンドパミンを増加させ、互いの相互作用を促し、うつ病の治療になるというデータがあるのです。

 

運動は適切に行えば、副作用がありません。

 

もし、運動に抗うつ薬と同じ、またはそれ以上の効果があるとしたら、どちらを選ぶでしょうか。

抗うつ薬には吐き気、性欲減退、離脱が難しくなるなどの多彩な副作用があります)

 

もちろん、うつ病は病状が上下しますから、あまり安定していない時に運動は無理でしょうけれど、周囲が支援するなどの何らかの支援をして、運動習慣をつけるということが、最も良い治療になりうるのかもしれません。

 

将来、仮にうつ病治療の第一選択の治療が【運動】になると、また違った精神疾患治療の世界が広がるのではないかと思います。

 

もともと長い歴史の中では、人類にはうつ病という概念もきっとなく、抗うつ薬という武器もなかった訳ですから。