予防医療のランダム・ウォーカー

内科専門医のblog 〜予防に勝る治療なし〜

【下痢症】とは何なのか

外来で風邪と同様に多い症状として、下痢があげられます。

 

急性下痢症とは、

 

急性発症で(発症から14日以内)、軟便、水様便が普段よりも一日3回以上増加しているもの

 

と定義されています。

 

 原因は90%が感染が原因で、その多くはウイルスとされています。

その他の原因としては、薬剤性、中毒性、虚血性と続きます。

ウイルスの代表格は、冬季に流行するロタウイルスノロウイルスです。

(最近ロタウイルスに対する予防接種が開始となり、罹患者は減少傾向だそうです)

 

細菌でマークすべきは、サルモネラ菌カンピロバクター腸炎ビブリオ腸管出血性大腸菌です。

 

また、海外渡航歴があれば赤痢菌、コレラ菌も考慮に入れます。

 

抗菌薬を直近で内服していれば、偽膜性腸炎という病気も考慮する必要があるでしょう。(原因はクロストリジウム・ディフィシルという病原体です)

 

チフス、パラチフスという病原体もありますが、下痢をともなわないことも多いそうです。

 

 

急性下痢症の診断方法を以下にまとめていきます。

 

まず重要な情報としては、

 

発症時期がいつか

発熱・血便・腹痛はあるか

食事内容

海外渡航

抗菌薬内服歴があるか

免疫不全はあるか

同じような症状のひとが周りにいるかどうか

 

また、嘔吐が強い場合には、ウイルス性、もしくは中毒性の可能性があるそうです。

 

集団発生の場合には、食中毒では2~7時間経過していることが多く、ウイルス感染では潜伏期間は14時間以上程度と考えます。

 

吐き気や嘔吐といった症状は、急性心筋梗塞、頭蓋内病変、敗血症などでも多くみられるため、常にそれらを念頭には置いておくべきでしょう。

 

下痢も重症度を判定することが大切で、血性下痢で38度以上の発熱がある場合、水様下痢のために日常活動が制限される場合で、特に海外渡航歴が一週間以内にある場合は、細菌性下痢も想定します。

(腸チフスサルモネラ腸管出血性大腸菌カンピロバクターアメーバ赤痢など)

 

 a)ウイルス性下痢症

ノロウイルスロタウイルスが代表格です。

 

ノロウイルスによる下痢症は、ノロウイルスに汚染された加熱不十分な二枚貝を食べることによって発症することが有名ですが、ヒトからヒトにへの感染もあります。

潜伏期間は短く、半日~2日です。急な吐き気や嘔吐から始まることが多く、その後に水様下痢が来るという臨床像です。下痢は2-3日で改善することが多く、発熱は伴わないことも多いため、発熱が有ったり下痢が改善しなければ、他の疾患を考慮するとされています。

ノロウイルスに関しては、便の迅速検査が保険適応となったようですが、検査が陰性となってもノロウイルスを完全に否定できる検査ではないことから、あまり推奨されていません。

 

 

b)細菌性下痢症

 

ウイルス性下痢と比べて症状が強いのが特徴です。

38度以上の発熱、血便、腹痛を伴うことが多いとされているが、症状から断定はできないので、疑わしいものを食べたのかどうかという情報が重要になります。

 

まず、 魚介類といえば、腸炎ビブリオです。

カレーやシチューではウェルシュ菌

卵・牛レバー刺や鶏肉でサルモネラ菌

生の鶏肉といえば、やはりカンピロバクターが有名

(ギランバレー症候群の原因にもなります)

生の牛肉では腸管出血性大腸菌

・・・

など、結構あげたらきりがありませんので、今回は以下省略します。

 

 

成人の細菌感染は自然に軽快するものが多いため、患者さん全員に検査を行い、下痢症の原因微生物を特定することはあまり意味はない、とまとめられています。

 

しかし、症状が長引いている場合や重症感がある場合(バイタルサイン)には、便培養を躊躇しない方がよさそうです。

 

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治療については大原則が次の一文です。

 

急性下痢症に対しては、まずは水分摂取を励行した上で、基本的には対症療法のみ行う

 

バイタルサイン(血圧、心拍数、体温などです)、起立性低血圧の有無から脱水の程度を評価し、補液が必要であれば行うが、可能な限り経口摂取を行うことが勧められています。

 

しかし、以下の場合には抗菌薬投与が必要とされています。

 

1、菌血症が疑われる場合

2、重度の下痢による脱水・ショックで、入院加療が必要なレベルである

3、免疫不全がある場合

4、合併症のリスクが高い場合(50歳以上、人工血管、人工関節、人工弁、ペースメーカなどが入っている場合)

5、海外渡航後の下痢症

 

 

※便培養でサルモネラ菌カンピロバクターと診断された場合にはどうするかも記載がありましたので、以下に簡単にまとめます。

 

サルモネラ菌

健常者における軽症のサルモネラ腸炎については、抗菌薬を投与しないことを推奨

必要な場合には、レボフロキサシンを3~7日、もしくはセフトリアキソン点滴を3~7日、アジスロマイシンを3~7日。

 

カンピロバクター

健常者における軽症のカンピロバクター腸炎については、抗菌薬を投与しないことを推奨

仮に重症な場合には、クラリスロマイシン(200)を一日2回、3~5日。

 

 

長くなってしまいましたが、今回の資料を確認しての感想は、

 

急性下痢症のほとんどは、原因が何であれ、検査や抗菌薬は不要で、対症療法のみで水分をとりながら経過観察するしかないということでしょうか。

 

 

重症かどうかの判断がひとつ分岐点になりそうです。