抗菌薬に対する耐性をもった菌が増加し、その菌が原因での死亡者数が8000名という報道が最近されていました。
日本では抗菌薬を風邪にでも何にでもすぐ使用しすぎるから、耐性菌の問題が起こっているという趣旨の内容でした。
こういう話の結語は決まっていて、抗菌薬の使用の適正化を医療者が考えるべきだというものです。
基本的に、ウイルスには抗菌薬は無効で、細菌による感染に対して使用されます。
令和元年12月5日に厚生労働省から、抗微生物薬適正使用の手引き(第二版)が出されました。
風邪というものがどういう要素で成立しているのか、ということを定義していて、非常に興味深い内容と思います。
【風邪】というのは定義が難しく、医学書などでも曖昧な記載が多いのが実際です。
【風邪】とは、医学的な表現では【急性気道感染症】と定義されます。
(気道とは、その名の通り空気の通り道で、口から肺の手前までです)
急性気道感染症の原因は、ウイルス(ライノウイルス、コロナウイルス)がほとんどを占めるとされていて、細菌が関与するものはわずかであるとされています。
ウイルスには抗菌薬(一般的に抗生剤とよばれるもの)が無効です。
風邪を引いた、という場合には、この急性気道感染症と考えます。
この急性気道感染症を扱う際には、感冒 ⇒ 急性鼻副鼻腔炎、急性咽頭炎、急性気管支炎の4タイプを考えるということです。
a)感冒:発熱はあってもなくても良い。鼻汁(鼻水)、鼻閉感(鼻づまり)、咽頭痛、下気道症状(咳・痰)の3つの症状が、同時期に同程度あるものをいう。
症状は発症から3日目くらいでピークとなり、7-10日で軽快していくという経過をとるのが一般的とされます。
しかし、その経過から外れて症状が進行性にどんどん悪化したり、一度良い方に向かっていた症状が再び悪化してきた場合には、細菌感染症が合併してきたと考えます。
※インフルエンザウイルス感染では、高熱、筋肉痛、関節痛などが強く、咳が出る頻度が高い。感冒と鑑別に迷う際には迅速検査キットを使用する。
感冒がベースにあり、それが症状によってさらに強くなったものが、急性鼻副鼻腔炎、急性咽頭炎、急性気管支炎になります。
b)急性鼻副鼻腔炎:発熱はあってもなくても良い、くしゃみ、鼻汁(鼻水)、鼻閉感(鼻づまり)がメインの症状。
症状が一旦改善したかのようにみえて、再度悪化した場合には細菌感染合併を考えること。
鼻汁の色だけではウイルス感染によるものか、細菌感染によるものかがわからないという点が指摘されていました。
c)急性咽頭炎:喉の痛みを主症状とするもの。原因はウイルスが90%であり、細菌は10%程度と推定されている。
細菌では特にA群β溶連菌という菌が原因となることが多い。
A群β溶連菌の感染を疑う場合は以下の条件をチェックします
1、発熱が38度以上がある
2、咳がない
3、圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹
4、白苔を伴う扁桃腺炎
5、年齢(3-14歳は+1点、15-44歳は0点、45歳以上は-1点)
これらの合計が3点以上では、A群β溶連菌の検査キットを使用した検査を行った方が良さそうです。
※急性咽頭炎の鑑別疾患としては、EBウイルスによる伝染性単核球症をチェックする必要があります
d)急性気管支炎:発熱や痰の有無を問わず、咳を主症状とするもの。
ウイルスが原因の90%で、その他は百日咳、マイコプラズマ、クラミドフィラなどとされています。
あと忘れてはならないのが、結核です。2-3週間持続する咳では鑑別に挙げる必要があるとされています。
そして、治療ですが、
感冒:抗菌薬投与を行わないことを推奨。
急性鼻副鼻腔炎:軽症のものには抗菌薬投与は行わないことを推奨。中等症、重症の場合にはアモキシシリン内服を5~7日行う。
急性咽頭炎:A群β溶連菌の感染であれば抗菌薬投与を行う。アモキシシリンを10日。
急性気管支炎:慢性肺疾患などの基礎疾患がない場合や、合併症のない成人では抗菌薬使用は行わない。
以上のような内容になっています。
この診断手順の図には何度か出てきていますが、バイタルサインをしっかりチェックしているクリニックはかなり少ないと思います。
体温は測定していますが、血圧、心拍数(脈拍)、呼吸数などのチェックはしていないところがかなり多いと思います。
緊急性の有無を見分けるには、バイタルサインが極めて重要です。
個人的に今回の内容は勉強になりました。
風邪という大きなくくりの中には、ほとんどがウイルスだ、とはいっても、細菌感染を合併し、抗菌薬が必要な重症な病態も混在しているのがリアルワールドなので、一概にこれだからこの薬、と決めつけてしまうのも危険な気はしました。
診療の基本は、重症疾患を見逃さないことが一番だと思いますが、重症疾患となる前の初期段階を診察している可能性は常にある訳なので、やはり経過観察のためにもう一度再診はしてもらうべきなのでしょう。
次回以降で、風邪と双璧をなす下痢症について、まとめてみたいと思います。
※今回の内容は小児の急性上気道感染症については省略しています