前回、循環器医としては非常に驚くべき内容の臨床研究である、ISCHEMIA試験について簡単に内容をご紹介しました。
2018年の日本の統計データでは、確かにカテーテル治療の件数は全体として減少していません。
カテーテル治療が必要な緊急カテーテル治療が約76000件です。
ISCHEMIA試験でカテーテル治療は無用と判断された待機的なカテーテル治療が約20万件です。
つまり、日本で2018年に行われた急性心筋梗塞と狭心症に行われたカテーテル治療の総数は約27万6000件で、
そのうちの20万件については不要である可能性がある
というのが、今回のISCHEMIA試験の内容ということになります。
一件の治療にかかる医療費が300万円とすると、20万件減少すれば医療費削減効果は6000億円?でしょうか。
現在日本で行われているカテーテル治療の75%が不要になるとしたら、循環器領域としては革命的なことになりますが、このことは以前から指摘されている先生はいらっしゃいました。
このブログでも以前、心臓リハビリテーションはなぜ日本で広まらないのか というテーマで記載したことがありましたが、以下の文が重要な示唆を与えてくれます。
誰でも理想と異なる形は、理想に近づけたくなるものである。
心臓の血管に狭いところを画像で見せられ、簡単に治りますよ、保険で10万円しないですよ、と言われれば、ほとんどの患者さんは心臓リハビリ(運動療法)よりもカテーテル治療を選択してしまうだろう。
安定した狭心症に対するカテーテル治療が、予後改善効果がないのは確かなのだから、
今後もし美容外科と同様の位置づけとなり、自費診療(1回300万円)になれば、だれもカテーテル治療は選択しなくなるだろう。
この文章は、私がレジデントの頃にご指導いただいた先生が医学雑誌にもう6-7年ほど前に書かれたものですが、この内容はもう20年近く前から提唱されていました。
時代の先が見える人というのは、すぐに受け入れられません。
変なこといってるやつがいるぞ、と最初は認識されるものですが、
今になってISCHEIA試験の結果をもって、正しいことが証明されつつあることに大変驚くとともに、未来を見通す能力のある指導医に恵まれたことをいまだに感謝しています。