予防医療のランダム・ウォーカー

内科専門医のblog 〜予防に勝る治療なし〜

日本で、心臓リハビリテーションの普及率が低い理由

心臓リハビリ(運動療法)は、からだに良い効果ばかりなのに、なぜ普及率が高くないのか。心臓リハビリテーションの著名な先生が、興味深いことをおっしゃっていましたので、以下、内容をご紹介します。

 

(少し長くなりますが、心臓病、とくに狭心症心筋梗塞を経験された方は是非お読みください)

 

1980年代は急性心筋梗塞を起こしても、カテーテル治療がなかったため心臓のダメージが大きく、いかに心臓を破裂させないようにするか、というのが大事だった。

そのため、少しずつ移動距離を伸ばすことが心筋梗塞運動療法であり、当然リスクを伴うものなので、運動療法は入院中の限られていた。

 

急性心筋梗塞に対しカテーテルで迅速に対応できるようになった現在は、心臓が破裂したり、不整脈を起こすリスクが低下したため、運動療法心筋梗塞後の治療と再発防止の意味合いが強くなった。そのため、運動療法は生涯にわたって、外来で実施されるべきものに変わった。

 

しかし、現状をみると、2009年の調査では、

循環器内科のある病院の92%が、急性心筋梗塞に対するカテーテル治療を行っているにも関わらず、外来で心臓リハビリテーションを行っているのはわずか18%しかなかった。

現在でも、心臓リハビリテーションを実施している病院は50パーセントに遠く及ばない。

 

心臓リハビリテーションが普及しない理由としては、

 

1、医学教育の問題

医学部で、心臓リハビリテーションが教育内容に入っているところが今でも少数である。

運動療法の効果を知る機会がないため、そもそも医療者に知識がない。

 

2、医療制度の問題

【誰でも理想と異なる形は、理想に近づけたくなる】ものである。

 

心臓の血管に狭いところを画像で見せられ、簡単に治りますよ、保険で10万円しないですよ、と言われれば、ほとんどの患者さんは心臓リハビリよりもカテーテル治療を選択してしまうだろう。

 

安定した狭心症に対するカテーテル治療が予後改善効果がないのは確かなのだから、

(→カテーテルをやっても、狭いところが広く見えるようになるだけで、効果はやらなくても一緒、ということです)

今後もし、美容外科と同様の位置づけとなり、自費診療(1回300万円)になれば、だれもカテーテル治療は選択しなくなるだろう。

 

以上、長くなりましたが、なるべく原文に近い形で要約しました。

 

たしかに、理想と異なる形を理想に近づけたい、というのは誰しも思うことでしょうが、心臓の血管の狭い部分を見た目だけで治療するのは正しくないのです。

 

誤解がないように補足しますと、急性心筋梗塞など、急激に血栓が詰まり、血流が流れなくなるようなものにはカテーテル治療は必要です。

 

この先生が言っているのは、

 

現在、比較的安定している状態の狭心症(心臓の血管がある程度狭いが、動いた時にだけ胸が苦しくなる、または、心臓の血管はそこそこ狭いが無症状の場合)に、合併症のリスクすらあるカテーテル治療を急ぐ理由はなく、まずは内服薬と運動でしょ、ということだと思います。