予防医療のランダム・ウォーカー

内科専門医のblog 〜予防に勝る治療なし〜

ジムでの運動が不正確である理由

なにも情報がない中、パーソナルトレーナーが勝手に運動を処方している現状は危険だ、という話です。

人間のからだは、運動し始めると、全身の骨格筋に大量のエネルギー(酸素と糖分=グルコースでつくるもの)が必要になるため、肺では呼吸をまずはゆっくり、深く変化させ、酸素の取り込み量を上げます。

 

また、心臓はその収縮力(要するにパワーをあげる)と心拍数を上げて、肺から取り込んだ大量の酸素を骨格筋に届けています。 骨格筋に届いた酸素と糖分は、エネルギーをつくる回路に取り入れられ、莫大なエネルギーを生みます(回路a)。

 

運動をずっと継続すると、運動に必要なエネルギーを回路aからつくるエネルギーでまかなえなくなるため、仕方がないので、酸素と糖分を使わなくてもエネルギーをつくれる他の回路(回路b)も使うようになります。

ただ、その回路bでは、作り出せるエネルギーが小さくエネルギー産生に不利で、また、からだを酸性に傾ける物質(乳酸)を生み出してしまいます。

(小さい頃に、運動後に筋肉痛で乳酸がたまる、とか言ってましたが、まさに、この現象が起きていたのだと大人になってから知りました)

 

乳酸がたまり、からだが酸性になると、からだを動かしている酵素というものの反応性が低下し、生命維持ができなくなるので、人間はからだから二酸化炭素の排出量を増やすことで、からだがどんどん酸性に傾かないようにしていきます。

 

二酸化炭素の排出量を上げるとは、呼吸を早くすることです。

運動を続けると息がハアハアするのは、こういった現象をみています。 ただ、息をハアハアさせるのも限界がありますから、いずれは破綻しますが、そこまで行かないうちに、たいていの人は運動を中止しています。

 

※先日、マラソンで2位に入った選手が、途中で吐いたら楽になったと言ってましたが、胃酸を体外に出すことで、からだの酸性化を抑制したのでしょうか。

 

運動の安全性を考えると、からだが酸性に行かない範囲で負荷量を決定し、運動処方する必要があるのですが、それは厳密に計算できるものです。

 

運動量は個人個人の肺機能や心臓の機能、骨格筋の量などの様々な要因の掛け算によって決まるのは、上記したメカニズムをあたまに入れてもらえると、スッキリ理解していただけるのではないでしょうか。

 

心臓の機能、肺の機能、骨格筋の量、また腎機能などを把握しない運動処方はあり得ないのです。

 

長くなりましたが、今日は自分の専門分野なので、深く書かせていただきました。

 

こんなことを考えながら、自分は運動しています。