高血圧の授業を終えて
本日、動脈硬化・高血圧という、学生の立場としては非常に興味を持ちにくい内容について、講義をしてきました。
自分が学生の頃は、がんに対する分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などといった治療法はなく、悪性腫瘍の領域はまだまだ先の見えない世界でした。
その点、脳梗塞・心筋梗塞といった急性疾患については、カテーテル治療の成熟によって命を救われる方が増加し、しかもやっていることが単純でわかりやすいこともあり、授業にも興味を持って参加していたような気がします。
その頃から脳梗塞や心筋梗塞の原因は高血圧だったり、コレステロール異常による動脈硬化が原因だとは教わっていましたが、高血圧や動脈硬化には全く興味を持てませんでした。
(高血圧は内容的に地味だったのと、本質の理解ができていないかった学生の頃の自分の実力不足があったんだと思っています)
かくして、現在の進路に進んでしまった訳ですが、
あたりまえのことになりますが、
カテーテル治療をいくら頑張っても急性心筋梗塞を発症してしまう患者さんが減る訳ではありません。
カテーテル治療は表現が悪いのですが、もぐら叩きと一緒です。
発症したら治療する。それだけです。そして、何度も書いてきたように、心筋梗塞で壊死した心臓の筋肉は、カテーテルで治療しても元には戻りません。
本当にカテーテル治療をずっとやっていていいのだろうか、と思うことが最近特に増えました。
もちろん、カテーテル治療には、自分自身の放射線被曝の問題も出てきます。
同じような立場で、カテーテル治療を頑張っておられる先生方はすごいと思っていますが、
今後は、発症をさせないような仕組みづくりがしたいと最近本気で思います。
そんなことを考えながら、授業スライドにその思いを込めつつ、学生には全く興味のないであろう授業をしてきました。
学生の頃の自分とはだいぶ価値観が変わったものだなあ、と。
心筋梗塞後も、脚の動脈が狭くなる末梢動脈疾患も、結局、運動療法が重要という結論なのです。
進路を決める際にそこまで思いが至らなかったのは、ひとえに学生の頃の勉強不足だなと思いました。
優秀な同期は最初から心臓病には運動療法だ、と言っていましたから、彼には今になって改めて脱帽です。
中年期の歩行速度が老化予測の指標となる可能性
【中年期の歩行速度が老化予測の指標となる】という内容です。
興味深い研究結果でしたので、ご紹介します。
結論から書いてしまいますが、
歩行速度が遅い人は、歩行速度が速い人に比べて老化が加速しているという結果です。
45歳時の歩行速度を測定、また同時に脳のMRIを撮像した結果、
歩行速度が速い人に比べて、遅い人では脳の容積が有意に減少していました。
また、
大脳皮質厚の減少
大脳皮質表面積の減少
大脳白質の高信号域の増加
といった、脳の老化を示唆する所見が認められました。
この研究がユニークだと感じたのはここからです。
19項目(血圧、心肺機能、歯の状態など)の経年変化を評価したところ、
歩行速度が遅い人では老化が加速しているという結果となり、
さらに、
顔年齢も評価しており、歩行速度が遅い人では顔写真が老けて見えたと結論づけられていました。
顔写真の部分は多少主観的な要素が入っている可能性がありますが、
それでも参加数が904名となっており、nは少ない訳ではありませんので、興味深い結果です。
この内容を知った上で自分の身の回りのひとの歩く速さを見てみると、世の中が少し変わって見えるかもしれません。
少なくとも自分は、外来などでたくさんの方にお会いする機会が多いので、興味深いです。
自宅筋トレにデッドリフトの要素をどのように導入するか
筋力トレーニング(レジスタンストレーニング)では、
ベンチプレス、デッドリフト、スクワットという三種類の筋力トレーニングが三大トレーニングとされています。
私の筋力トレーニング、有酸素運動はあくまで心臓病に対するリハビリテーションの知識・経験から派生してきたものです。
そのため、
基本的には自宅でできる範囲で、自体重トレーニングを患者さんにもお願いしていますし、自分自身もメニューを更新しながら継続しています。
心臓リハビリテーションの現場では、
ふくらはぎは第二の心臓というように、下肢の筋力が増加することによって、心臓に下肢から戻る静脈血の戻りがスムーズになるという目的から、
また、転倒防止の観点から簡便に継続できるという視点から、スクワットの要素が重視されている傾向にあります。
両サイドに椅子を置いて行えば、転倒のリスクも減りますので、これはこれで理にかなっているのですが、
運動自体が単調になるのと、使用できる筋肉に限りが出てしまいますので、
なんとか他の要素も患者さんに提供したいとずっと考えつつ、ここまで来てしまいました。
今回、三大トレーニングのうちの、デッドリフトの要素を自体重トレーニングで導入できないかを考えてみました。
デッドリフトとは、足元の重りを両手で把持し、背中の筋力だけで上へ上げる運動です。
これを自宅で、しかも心臓病の方の目線でどう取り入れたらよいのかを考えました。
一番安全なのは、コピー用紙のようなA4サイズの用紙の束(もしくはあつい本など)を床に置き、それを両手で持って腰の力だけで持ち上げる方法が、一番危ない負荷がかからないかと思います。
コピー用紙の枚数によって負荷を変えられるので、その量は人それぞれですが、それでも30回も繰り返せば、それなりの負荷になりそうです。
前屈に制限がある場合などは、目の前に椅子を置いて、その上にコピー用紙の束を置いて行うのも一法です。
正確には自体重筋トレ、ではありませんが、
一応ここでは自宅で患者さんが簡便にできる、しかも安全に、というのが目的で書かせてもらいました。
他の方法もいろいろあるのですが、実際にやってみて転倒のリスク等を考慮すると、この方法が良さそうです。
自分でしばらく継続して、良さを確認できた段階で外来でリリースする予定です。
糖尿病と歯周病の密接な関係性
歯科というものは奥が深いもので、知らないことがたくさんあります。
心臓の手術前に、主に手術後の心臓内部の感染予防のため、歯科でう歯(むし歯)のチェックをしていただいたり、または、入院中の場合は、歯科医の先生に病棟に出張していただいたりしたことは今までにもありました。
最近の知見では、歯周病治療が糖尿病の治療になるという話題です。
機序としては、歯周病による口腔内の炎症が、インスリンという血糖を下げるホルモンの効果を弱めて、糖尿病のコントロールを悪化させるようです。
歯周病の治療を行っただけで、糖尿病のコントロールの指標のひとつとして使用されているHbA1cが改善したという報告があり、
今回改訂された糖尿病診療ガイドラインにも取り上げられました。
簡単にまとめると、
歯周病は、疫学的に糖尿病悪化に関連しており、歯周病の重症度が高いほど糖尿病のコントロールが不良になる。
糖尿病(1型糖尿病除く)では、歯周病治療によって血糖が改善する可能性がある。
以上のことから、
糖尿病の治療を受けている方全てではないにしても、
多くの方々が、歯周病を治療しさえすれば糖尿病ではなくなる可能性がある
ということでもあるように思えます。
歯周病を治療して、今までの食事療法と運動療法を続けたら、糖尿病を脱した、なんてことが起こる可能性があるということです。
振り返ってみれば、歯周病治療をされた方の中にそういった経験があったようにも思えます。
糖尿病のリスクから解放されるということは、かなりの病気から解放されるのと同義です。
早速明日からの診療に活かそうと思います。
※追記します
コメントをいただきありがとうございます。
少し難解な内容になると考え省略しましたが、歯周病による炎症によってインスリンの効きが悪くなる(インスリン抵抗性)が糖尿病増悪の機序と言われています。
補足していただき、ありがとうございます。
【心臓手術前に受けた説明を、大半の患者さんは理解していない】のは本当か
手術前の説明をほとんどの人が理解していない、という話です。
【心臓手術前に受けた説明を、大半の患者さんは理解していない】という内容の論文がありました。
心臓カテーテル治療を受けた326名の患者さんに対する調査結果です。
326名の内訳は緊急治療が159名、待機的治療が167名です。
まずこの内訳をみると、急性心筋梗塞で本当に心臓カテーテル治療が必要だったのは、約半数ということがわかります。
(急性心筋梗塞には心臓カテーテル治療は必要、安定型狭心症には不要です)
待機的に治療ができた、という167名は安定型の狭心症ということです。
(厳密には不安定狭心症をいくらか含んでいる可能性はありますが、少数です)
これらの患者さんに対して術前に行った手術の説明が、あとから確認したところ、
患者さんの40%以上が内容を理解していなかったという結果です。
さらに、60%の人が心臓カテーテル治療で病気が治ると誤認していました。
また、待機的に心臓カテーテル治療を行った95%もの患者さんが、「今後の心筋梗塞のリスクが下がる」、91%が「寿命が延びる」と認識していたというのです。
カテーテル治療にはそのような効果はありません。
今回の結果は、要するに治療の内容に関しても、その時の病態についても、ほとんどの人がわかっていなかったということになります。
緊急で治療を受けた159名は、一分一秒を争う中で説明を受けていますから(そうでないと急性心筋梗塞はどんどん死亡率が上昇します)、説明を十分に理解していなかったというのは、ある意味仕方ないことかもしれません。
ただ、問題なのは、治療まで十分時間のあった待機的治療を受けた167名が、このように病気を誤解しているということです。
おそらくどの循環器医も、
カテーテル治療が成功すればもうこの病気にはなりませんとか、寿命が延びますよ、病気自体が治りますよ、とは言っていないはずなのですが、
十分な説明がないまま、治療後のきれいになった血管をこのように見せられると、
「ああ、もう良くなった」
「今までの積み重なった病気のリスクはこれでゼロになった」
「これでもう心臓は問題ない」
と思ってしまうのは、ある意味で当たり前かと思います。
実際、治療後にそんなことをおっしゃる方も少なくありません。
ここで本当は、
こういった病気は全身の動脈硬化が原因なので、
今回はその一部を治療しただけで、ほかの部分からまた狭心症や心筋梗塞を発症する可能性は高いのです、と説明し、しっかり理解していただかなければならないのですが、
なかなかご理解をいただけないことも多いのが現実です。
逆に、
こういった説明を理解していただける方は、間違いなく週3回の運動治療(運動療法)に参加してくれます。
結局、個人個人の性格とか、理解度の問題で、その後の人生は大きく変わってしまうのが現実ですが、十分に説明しない医療サイドの責任もあると思います。
有酸素運動・レジスタンストレーニングそれぞれの特徴を再確認する
あらためて、exerciseの有効性をまとめてみたいと思います。
わたくしは、心臓病の運動療法を専門にしており、いままでに様々なケースでの心臓リハビリテーションを経験してきました。
狭心症・心筋梗塞後の運動療法はもとより、重症心不全、なかには心臓の機能が著しく悪く、人工心臓を装着しなければならないケースでの運動療法の経験もあります。
心臓病のケースに比べれば、一般の未病(まだ病気を発症していない場合)の方の運動に関しては、比較的安全に行えるケースが多いと思いますので、ひとりでも多くの人に始めてみていただきたいと思います。
運動は、薬物療法のような副作用の心配がなく、同等の効果が得られる点ですばらしい治療法です。
【有酸素運動の特徴】
1、最大酸素摂取量の増加効果=心肺機能の改善効果
2、心拍出量の増加効果
3、安静時心拍数の低下効果
4、インスリン感受性の改善効果=糖尿病の予防・治療
(インスリンとは血糖値を下げるホルモンです)
5、中性脂肪の低下効果、HDLコレステロール上昇効果
6、収縮期血圧の低下効果
7、自律神経機能の改善効果
9、心不全増悪による入院の減少効果
10、生命予後の改善効果(さまざまな死亡、心臓死の減少)
11、大腸がん(結腸がん)予防効果
12、肥満改善効果
13、骨密度改善に対する効果
14、精神疾患(うつ、ストレス、不安)改善効果
など
※心肺機能を大きく改善させるが、筋力増加に対する作用はほとんどない
有酸素運動の良さは、科学的な根拠が証明されているものだけでもたくさんあります。
これ以外にも細かなことを挙げていけばきりがないです。
以前ご紹介したISCHEMIA試験以外でも、狭心症に対してカテーテル治療と運動療法で比較したものでは、カテーテル治療よりも運動療法をした群では結果が良かったとされるデータもあります。
有酸素運動とは、一般的にはウォーキングとぺダリング(自転車こぎ)になります。
【レジスタンストレーニングの特徴】
1、筋力・筋持久力の増加効果
2、骨密度改善効果
3、インスリン感受性の改善効果
4、肥満改善効果
など
レジスタンストレーニングも一般的には有酸素運動と同等の効果を見込めますが、一番の相違点は、
レジスタンストレーニングは筋力増強効果はあるが、心肺機能は向上しないという点です。(有酸素運動には筋力増強効果はありません)
どちらが優れているのかということではなく、それぞれの良さを知識として知って、運動を継続することが重要です。
肥満を改善させるため、ダイエット目的で運動をしたいという方が多いと思いますが、その場合は、下半身の筋力トレーニングから開始するのが一番かもしれません。
体重が標準よりはるかに多くなっている場合は、歩いただけで膝関節に負荷がかかりますから、膝周囲の筋力を増強するのは理にかなっています(変形性膝関節症の予防)。
脚が太くなりそうで嫌だ、という人は多いですが、脚を太くするまでにはかなりの筋力トレーニングが必要ですから、始める前から心配する必要はないと思いいます。
運動は目的が何であれ、最終的にはさまざまな病気の予防につながっているということははっきりしています。
運動をはじめる、継続する動機はなんだっていいのです。
有酸素運動やレジスタンストレーニング以外にも、最近になってヨガの有効性を示すデータも出てきています。
良く精査して、またご紹介したいと思います。
運動メニューを改めて見直す
自分で決めた運動習慣を継続して、ちょうど一年になります。
仕事の都合などで、どうしてもできなかった日はありましたが、
それでも、週3回の運動でも効果があることを考えれば、十分やり抜いたと思っています。
私事ではありますが、
自分の世代はちょうど若い頃に、狭心症や心筋梗塞のカテーテル治療や、徐脈(脈が遅すぎて支障をきたす)に対するペースメーカ治療、不整脈に対するカテーテル治療が非常に伸びていた時代を過ごし、それらに明け暮れる毎日でした。
そうした日々を過ごすうちに、
特に、狭心症・心筋梗塞の患者さんは治療をしても、少しするとまた治療が必要になることに気がつきました。
これは、根本的に何かを変えないと、狭心症や心筋梗塞という病気は簡単には克服できない、ということを意味していました。
狭くなった血管を、カテーテルでいくら拡張させようが、ステントという金属の金網で補強しても、本当に治療したことにはなっていないということにようやく気がついたのが医師6年目。
ちょうど当時在籍していた病院が運動療法で有名な病院であり、
狭心症にはカテーテル治療ではなく運動療法で治療する、心筋梗塞も治療直後から運動療法が必須である、という指導を直に受け、
運動療法で患者さんが見違えるほど良くなり、再発のため戻ってくるということがなくなるということを、目の当たりにしました。
結局、狭心症や心筋梗塞も、その始まりは高血圧や糖尿病、コレステロール異常がスタートになっているのです。
ですので、そこを改善しないと、いくら狭い血管を物理的に拡張させても、また他からどんどん病変は出てきます。
カテーテル治療の場面で、綺麗になりましたね、良かったこれで治りましたね、というのは短期的な視点で見れば正しいのかもしれませんが、長期的には嘘です。
このことをはっきり言っている医療関係者が少ないので、患者さんも治ったと勘違いしてしまいます。
本当の治療はカテーテルが終わった後からだというのに・・。
このように、狭心症や心筋梗塞後、また重症心不全の運動療法の効果を実際目の当たりにし、
これは自分にも使えるし、まだ重症化していない方々の予防に使うべきだと考えました。
そこで、わたくしが自分に一年前に課したメニューを示します。
これは患者さんにもお願いしたメニューになります。
まず有酸素運動ですが、これは一日30分のウォーキングを課しました。
レジスタンストレーニング(筋トレのこと)は
1、壁に手をついて、踵上げ30回(可能なら朝と夜)
2、ハーフスクワット20回(可能なら朝と夜)
これだけです。
ポイントは最小限の負担で、自宅でできることです。
継続できる範囲で行うことが結局は最終的に効いてくると思います。
メニューをこれに決めたのは、
重症心不全の初期の心臓リハビリに指導している内容を多少修正したものだったので、だれにでも継続可能と判断したためです。
一年間継続するうえで、上半身のレジスタンストレーニングも追加した時期はありましたが、
上記した1と2で下肢の安定性をしっかり獲得することと、下半身の筋力が増加すれば毎日のウォーキングがさらに効率が高くなるため、結局はこの1,2を愚直に継続する方針としました。
ただ、途中から負荷が物足りなくなってきまして、最終的には
踵上げは一日100~350回
ハーフスクワットは100~250回
途中からフルスクワットを追加して一日30回
時間的に余裕があれば軽めの腹筋
という基本形を守りながら、
途中から有酸素運動の負荷強度を上げたかったので、ウォーキングではなく、縄跳びに変更。
(やはり有酸素運動も多少負荷がかからないと、高い効果が得られないと思ったからです。ただし、有酸素運動の基本はウォーキングやぺダリング(自転車こぎ)ですので、一般的にはそちらをお勧めします)
縄跳びは30回から開始しましたが、段階的に回数を増加させて、今は一日150回を最低ラインに設定して継続中です。
とりあえずの一年間の記録ですが、
睡眠時間(平均):7時間8分
踵上げ:46120回
ハーフスクワット:35225回
フルスクワット:3425回
腹筋:16651回
今年は、今まで継続した下肢の筋力トレーニングを維持しながら、上半身の強化に移っていけるようにしたいと思います。
また、トレーニングの成果を科学的に評価できる記録についても考えたいと思います。
仕事の性質上、どうしてもジムに通うことが難しいのと、もともと心臓リハビリテーションに携わってきて、独自でメニューを組んでいたこともあって、あくまで自己流かつ自重トレーニングを中心とした運動療法を継続していきたいと考えています。
食事内容、タンパク質摂取の方法についても再考したいと思います。
自宅で行う運動は比較的簡単です。
ただ、簡単だからといって効果が低いという訳では決してありません。
ジムなどに通った方が「やった感」はでると思いますが、しっかりした指導がないのであれば、費用対効果はそれほど高いと思えません。
(移動時間を含めて)
運動には、一般的に考えられているよりも遥かに高い効果があります。
自分でできるメニューから是非やっていただければと思います。