同じ方向を向いていないと、治療はうまくいかない仮説を考える
今回の内容には、まったく科学的な根拠はありません。
データも何も(たぶん)ありません。
データがあるのかどうか調べてもいないです。
あたりまえの内容なのですが、
治療を受ける側(患者さん)と治療者(医師、看護師、薬剤師などのスタッフ)の、その治療に対する姿勢、向き合い方が同じ方向を向いていないと、うまくいかないことが出てくるという、個人的な経験の話です。
循環器内科という分野は、他の内科よりも手技的に求められることが多いです。
狭心症・急性心筋梗塞に対するカテーテル治療(経皮的冠動脈形成術)
徐脈(脈がゆっくりになる)に対するペースメーカ植え込み術
致死性不整脈・心不全に対する植込み型除細動器、両室ペーシング植込み
末梢動脈疾患に対するカテーテル治療
弁膜症に対するカテーテル治療
(以前、なぜ心臓弁膜症はCMが多いのかという内容で少しご紹介した治療です)
心房中隔欠損症に対するカテーテル治療
左心耳閉鎖デバイスによる左心耳閉鎖術
など、挙げてみればたいした数はありませんが、
それでも一般的な内科とは一線を画した診療科だと思います。
ちょうど自分が経験してきた治療というのも成熟期を過ぎ、特に狭心症のカテーテル治療に関しては、データ上もう不要なのではないかと言われるまでになりました。
しかし、上記した治療の多くは、これからも残りながら進化を続けていくものばかりです。
治療はうまくいくことがほとんどです。
しかし、どの治療にも予期せぬ合併症は必ず出てきます。
今回挙げた治療の上から4項目についてはそれなりに数を経験させてもらい、メインオペレーターとしてたくさん患者さんに治療をご説明し、手術数をこなして感じたのは、
患者さんと医療者が、ひとつの治療に対して、お互い理解して(医療者側はわかりやすく説明して理解度を高める努力をし)納得していないと、そういう時に限って合併症は起こりうるということです。
患者さんには、少しでも納得していなかったり、疑問がある段階では絶対に侵襲的な手術はお勧めしないことにしています。
納得しているかしつこく聞くこともあれば、やはりその人の納得具合は顔には何か出ていると思っています。
少しでもそういった空気を感じた場合には、治療はおすすめしません。
(とはいっても、急性心筋梗塞や徐脈の治療に限っては時間との勝負なので、ある程度、もうやります的な説明をさせていただいていますが・・)
まあ、当たり前といえば当たり前なことですが。
内服薬も一緒です。
疑問があったり、納得していない場合、医療者を信頼しきれていない場合は、当然内服を自分で止めたりしてしまう人が出てきますから、治療はうまくいきません。
また、そういう場合に限って、やはり薬の副作用などが出やすい気がします。
冒頭にも書きましたが、今回の内容にまったく科学的な根拠はありません。
あくまで自分の経験ですが、この経験則をこれからも崩す勇気は自分にはありません。
データはありませんが、たぶん相関があると思います(自分の中だけは)。
みなさんもこういった経験則をお持ちではないでしょうか。
週刊誌が薬を否定し続けるのはなぜ
先日、何気なく書店の本をざっと見ていくと、
危ない薬、薬は危険、危険な薬をのまされているといった特集が、複数の週刊誌で組まれていました。
週刊誌がこういう目的で記事を特集するのは、もちろん世の中にそういう記事を読みたいという需要があるからでしょうけど、その目的はなんなのでしょうか。
薬の副作用を大々的にPRするのは良いのですが、それを言い出したら全ての薬に副作用の可能性がある訳です。
副作用を上回る良さがあるから、内服薬として存在しているはずです。
副作用ばかりで効果が乏しい薬を国がどんどん認可して、しかも税金を使ってきたということを言っているのでしょうか。
高齢者に多剤を使用するのは悪である、という風潮もありますが、
例えば、急性心筋梗塞後には飲まなければならないと決まっている薬が複数あります。
そこに糖尿病などの併存疾患があると、どうしても多剤にならざるをえないというのが現状です。
これらを内服しないと、その後の生命予後(病気のあとにどれくらい再発なくいきられるかという指標のようなもの)が悪化することが科学的に示されてしまっているので、
逆に急性心筋梗塞後にそれらの薬を使用していないと、同業者間では、なんで処方されてないの?、なんか飲めない理由あるの?という話になってしまいます。
高齢者の薬を減らせ、というのは結構やってみると難しいのです。
週刊誌の内服薬叩きは、エビデンスのあるデータを敢えて否定することで、標準治療ではない代替医療への誘導をしていきたいのでしょうか。
もしかしたら、バックグラウンドにそういう圧力があるのかもしれません。
内服薬に対する信頼は、日常診療をしていくうえで非常に重要です。
いろいろな言い分はあるのでしょうが、患者さんの内服薬への信頼を、ひとつの記事で簡単に壊してしまうのはどうなのでしょうか。
薬を否定し続けるのは、やはり、週刊誌が売れるからなのでしょうか。
詳細を知っている方がいたら、教えて頂きたいです。
【いい病院ランキング】は、なにが「いい」と判断されているのか
雑誌の【いい病院ランキング】はよく目にするものですよね。
いい病院ランキングはだいたいのものが、手術の症例数の多いところから1位、2位・・と並べて書いてあります。
症例数が多い病院には2種類あると個人的には考えています。
ひとつは正統派です。質の良い治療をしていて、紹介される患者さんが多く、結果として手術をたくさんやっている病院です。
もうひとつは、本来は手術を回避できる状況でも手術をして、症例数を稼いでいる病院です。
症例が多い病院というのは、だいたいこのどちらかであり、いずれにせよ結果的に手術技術は向上するので、この【いい病院ランキング】は一定の判断基準になると思います。
ただ、手術の数は決して多くはなくても、しっかりとひとりひとりに合った治療をみんなで議論し、提供しているモラルの高い病院もある、ということは知っておいていただきたいです。
そういう病院こそ本当の意味でいい病院なのに、手術の症例数は多くならないので、なかなか雑誌には載らずいい病院と評価されない、という矛盾があります。
これは、症例数が多い=いい病院という定義をしてしまっているので、仕方のないことですが。
いい病院ランキングをみるといつも、質を評価するのは本当に難しいといつも考えさせられます。
どの業界でもあると思いますが、インサイダー情報はなかなか外の人間には手に入りにくく、とても難しいなと思います。
先日、若手の先生から症例数の多い病院についていろいろと質問を受けたので、今回はこの内容にしてみました。
【ISCHEMIA試験】を受けてこれから起こること
前回、循環器医としては非常に驚くべき内容の臨床研究である、ISCHEMIA試験について簡単に内容をご紹介しました。
2018年の日本の統計データでは、確かにカテーテル治療の件数は全体として減少していません。
カテーテル治療が必要な緊急カテーテル治療が約76000件です。
ISCHEMIA試験でカテーテル治療は無用と判断された待機的なカテーテル治療が約20万件です。
つまり、日本で2018年に行われた急性心筋梗塞と狭心症に行われたカテーテル治療の総数は約27万6000件で、
そのうちの20万件については不要である可能性がある
というのが、今回のISCHEMIA試験の内容ということになります。
一件の治療にかかる医療費が300万円とすると、20万件減少すれば医療費削減効果は6000億円?でしょうか。
現在日本で行われているカテーテル治療の75%が不要になるとしたら、循環器領域としては革命的なことになりますが、このことは以前から指摘されている先生はいらっしゃいました。
このブログでも以前、心臓リハビリテーションはなぜ日本で広まらないのか というテーマで記載したことがありましたが、以下の文が重要な示唆を与えてくれます。
誰でも理想と異なる形は、理想に近づけたくなるものである。
心臓の血管に狭いところを画像で見せられ、簡単に治りますよ、保険で10万円しないですよ、と言われれば、ほとんどの患者さんは心臓リハビリ(運動療法)よりもカテーテル治療を選択してしまうだろう。
安定した狭心症に対するカテーテル治療が、予後改善効果がないのは確かなのだから、
今後もし美容外科と同様の位置づけとなり、自費診療(1回300万円)になれば、だれもカテーテル治療は選択しなくなるだろう。
この文章は、私がレジデントの頃にご指導いただいた先生が医学雑誌にもう6-7年ほど前に書かれたものですが、この内容はもう20年近く前から提唱されていました。
時代の先が見える人というのは、すぐに受け入れられません。
変なこといってるやつがいるぞ、と最初は認識されるものですが、
今になってISCHEIA試験の結果をもって、正しいことが証明されつつあることに大変驚くとともに、未来を見通す能力のある指導医に恵まれたことをいまだに感謝しています。
狭心症のカテーテル治療は転換期を迎えている【ISCHEMIA試験】
今日は専門的な内容の話題になってしまいますが、
心臓疾患の多くを占めている狭心症という病気に対する認識が大きく変わろうとしている歴史の転換期を迎えていますので、ここに記しておきます。
動脈硬化が進展していくと、血管壁にはプラークなどの不要な物質が蓄積し、血管はだんだん狭くなります。
この血管が狭くなっていく現象は、からだの全ての動脈に及びますが、徐々に狭くなっていく事が多く、症状がでるまでその進展具合はわからないことがほとんどです。
(人間の身体はゆっくりとした変化には鈍感なのです)
特に問題となるのは、血管の径が細い部分で、心臓へ酸素などを供給している冠動脈という血管がしばしば問題の中心になります。
冠動脈は径が2~4mm程度の血管であるため、徐々に動脈硬化が進んだとしても、他の血管に比べ早期に血流障害が起こり得ます。
具体的な症状としては、
駅の階段を昇ると最近胸が重苦しくなるとか、重いものをもつと胸が苦しくなる、以前は問題なく歩けていた距離も、少し早歩きで歩いたりすると息切れがひどい、などです。
奥歯の痛みという症状で、狭心症といった方もいらっしゃいます。
以前のブログにも書きましたが、
狭い血管を見れば誰でも元に戻したくなるのが普通の感覚ですから、いままでは心臓の血管に狭いところが見つかれば、カテーテル治療でそこを広げてあげましょう、という治療方針をとっていた訳です。
その流れが少しずつ変化したのでは、最近の事でした。
血管が狭くても、心臓への血流障害が起こっていなければ狭いところを治療しても意味がない
という臨床試験の結果が次々に報告されるようになりました。
そこで、日本でも最近になり過剰な治療をしないように、本当に心臓の血流障害が起こっている場合にだけ、保険適応で治療しましょうという流れになってきました。
まとめると、
心臓の血管が狭い ⇒ 心臓への血流障害がある ⇒ カテーテル治療
心臓の血管が狭い ⇒ 心臓への血流障害なし ⇒ 薬物治療
こんな図式で理解し、実際日本ではこのような治療をしておられた先生方が多かったと思います。
さらに時は進み、2007年に発表されたCOURAGE試験という臨床研究では、
血流障害があっても、カテーテル治療は十分な薬物療法を上回ることができないという結果が示され、この事実は多くの循環器医の考え方を変えました。
しかし、カテーテル治療を黎明期から支えてこられた先生方にとっては、自分が何十年もやってきたことが否定されることになります。
COURAGE試験は、確かに重症例が含まれていない、心臓への血流障害を客観的な検査で確かめていないなどの臨床試験としてのデザイン不足があり、いろいろな反論もあったことは確かで、日本ではこの試験以降もカテーテル治療が減ることはありませんでした。
そんな流れの中、最近AHA2019という国際学会である臨床試験が発表されました。
その試験の名前は、ISCHEMIA試験といいます(ISCHEMIAとは虚血、つまり血流障害のことです)
対象は、比較的重症を含めた、心臓への血流障害がある安定狭心症5179人です。
この5179人を対象に、薬物療法のみの群(保存的治療群) vs 薬物療法に加えてカテーテル治療を行った群(+バイパス手術含む)に分けて長期経過を確認しました。
いままでの常識通りであれば、心臓への血流障害があり、薬物療法にカテーテル治療まで追加していますから、
薬物療法に加えてカテーテル治療を行った群(血行再建群)が良好な成績が出て当然だ、と誰もが考えていた訳です。
結果ですが、
平均4.4年間の追跡の結果、
カテーテル治療を行った群では薬物療法のみの群と結果は同等であったばかりか、
治療後の一年半頃までは、カテーテル治療群の方がリスクが高いとの結果
となりました。
つまり、安定狭心症については、
心臓の血管が狭い ⇒ 心臓への血流障害がある ⇒ カテーテル治療 薬物治療
心臓の血管が狭い ⇒ 心臓への血流障害なし ⇒ 薬物治療
という結論に近い結果となりました。
これを受けて、ある先生は
「結果はショックだった。今まで何のためにカテーテル治療をやってきたのか」というコメントを述べられていました。
今回の結果から言えることは、
今までに急いで治療を行っていたような場合にも、少し落ち着いて薬物療法を行い状況によってはカテーテル治療も行うといったように、患者さん側には選択肢が増えました。
また、これからは、カテーテル治療が本当に必要な人を時間をかけて深く考えていくことが求められると思います。
誤解がないように書きますが、急性心筋梗塞のような急性疾患の場合にはカテーテル治療はゴールデンスタンダードです。
今回は徐々に血管が狭くなる、安定狭心症 という限定です。
しかし、カテーテル治療の大多数はこの安定狭心症を対象に行われていますから、今後日本でも狭心症に対するカテーテル治療は激減していくでしょう。
(アメリカでは既に減少しています)
狭心症の治療においては、医療の常識が大きく変化するまさに歴史の転換点が今です。
あれだけ毎日多くの時間を割き、必死に身に着けてきた治療が今後なくなっていく可能性がある、ということは個人的にも非常に驚きですが、こうやって医療は進歩していくんだということを肌で感じています。
時間の流れがとても速くなっているので、変化に対応していく能力が今後はどんな分野でも求められそうです。
クリニックも生き残りをかけているにしても、酷すぎる話
ちょうど一年前に、不整脈の治療をさせていただいた方から相談がありました。
不整脈の治療は、房室リエントリー性頻拍という名前の不整脈に対するカテーテルアブレーションという治療になります。
治療後には不整脈の再発はなく、それ以降は高血圧の治療のため外来を2ヶ月に一回受診されているのですが、
10年前の交通事故の後遺障害をみてもらっている(ご本人の話では年一回)クリニックの医師から急に採血を勧められ、採血の結果、鉄欠乏性貧血だからサプリメントを飲みましょうと言われたそうです。
ここまでは、よくある話なのですが、
ご本人が今回言いたかったのは、
「そのサプリメントが保険が使えず、ひと月に5000円もするもので高いし、そもそも先生の外来(私の外来のこと)では一度も鉄欠乏性貧血なんて言われていなかったじゃないですか」ということのようでした。
たしかに、そもそも鉄欠乏性貧血という診断が正しいのであれば、治療には保険が適応されるはずです。
しかも、いままでそのような採血結果は自分の外来ではなかったので、おかしいなと思い検査結果を見てみたところ、 そのクリニックでの採血結果は、鉄欠乏性貧血の診断基準を満たしていませんでした。
なるほど、これじゃ薬を保険では処方できない訳だ、と納得しました。
その方はそのひと月5000円もしたサプリメントを見せてくれましたが、見たところでは普通の鉄分のサプリメントでした。
これは簡単に言ってしまうと、クリニックの売り上げのためでしょう。
そもそも、鉄欠乏性貧血の診断可能なレベルにまで到っていないのであれば、鉄分補充はまず食事内容を見直すことが原則です。
(あと、女性の場合には婦人科疾患の有無もチェックする必要があります)
安価なサプリメントをご紹介するならまだしも、高価なサプリメントを買わせるのは、倫理的にどうかと思いました。
正直、サプリメント系はこういう話ばっかりで嫌になります。
患者さんからの情報をもとに調べてみたら、やはり内科の医師ではありませんでした。
何科だったかは伏せておきますが、 内科じゃない人がやってる内科はこういう事例が少なくありません。
例えるなら、少し違う気もしますが、循環器内科医が外傷をみるようなもの。です。
僕らにもみれないものは当然あります。
自分の専門以外の診れないものは、専門の先生へご紹介する。これが一番患者さんのためです。
専門以外に簡単に手を出している現在の風潮は変えなければならないと思いますが、クリニックや病院を選ぶ側の問題でもあります。
(誰も選ばなければ、そういうクリニックは潰れるはずだからです)
妊娠とインフルエンザ予防接種
妊娠中、妊娠をお考えの女性に、是非はやめにインフルエンザワクチン接種を考えていただきたくて、今回はこの内容にしました。
内容は簡潔にします。
妊娠初期のインフルエンザ感染は胎児に対するリスクがあり、また、妊娠中期、後期の感染はインフルエンザ感染が重症化しやすいと言われています。
これから妊娠を計画している女性は、インフルエンザの予防接種を受けた方がよいです。
また、妊娠中でもインフルエンザ予防接種は受けるべきとされています。
現在、日本で使用されているインフルエンザワクチンは、病原性のない不活化ワクチンという種類のワクチンですから、胎児異常リスクはないとされています。
逆に、生ワクチンと呼ばれる種類のワクチンは胎児へのリスクを考えなくてはなりません。
風疹や麻疹のワクチンは生ワクチンになります。他にも複数あります。詳細は産婦人科や、予防接種を行うクリニックの担当医師にきいてみてください。
今年はインフルエンザウイルス感染が例年よりかなり多い印象です。
是非参考にしてみてください。